築40年の小さな住宅の改修計画である。
敷地は周辺を水田に囲まれた場所に位置し、その水平線がどこまでも続くような風景の中にポツンと建っている住宅であった。法規上は接道していないため、取り壊すか改修するかのどちらかしか選択肢はなかったが、最終的に「すでにあるもの」を活かすという意味で改修することが決まった。
建築年数が40年ということから設備的な改善と構造の補強が求められ、現代の生活に見合った住宅への再生を望まれた。また、少ない予算と既存の構造体をそのまま利用するという枠組みの中で、敷地周辺との関係が計画のきっかけとなった。
既存の状態が植栽によって鬱蒼としていた東側の立面に1つの大きな窓を設けた。その窓からは二重の壁に挟まれた書斎とキッチンとが同時に映し出される。玄関を開けると南側に面した小さな庭へと抜ける土間が連続しており、それに沿うように水回りと寝室を配置した。それぞれの場所は小さなレベル差で領域が分けられており、東側には朝の強い日差しを和らげるために、壁を二重にし、その中に書斎として、ひとりで過ごすことができる場所をつくった。寝室の外には庇の役割を兼ねたバルコニーがあり、天気の良い日は昼寝をしたりできる場所になっている。
既存の天井を取り払い、屋根面で断熱を取ることで高い天井高を確保し、床を作らず土間にすることで、空間に広がりを与えつつ、コストダウンに繋げた。既存の構造体はそのまま残し、建物全体を包むように外周部で耐力壁をつくり、既存の基礎を外周部と内側から挟むように土間コンクリートを打設し、アンカーボルトで止めることで構造的な補強とした。
それぞれの場所では光の感じ方も外部との距離も異なり、季節や時間によって感じ方や見え方が変化していく。賃貸住宅であることから、この小さな家に住む人もまた変わっていくこととなる。
夏には田植えをし、秋には稲穂を実らせる水田の風景のように、住む人それぞれの生活が、この小さな家に変化をもたらしてくれることを期待している。