竣工年月:2024年3月
敷地面積:1,881.66㎡
建築面積:538.38㎡
延べ面積:869.50㎡
規模構造:木造2階建て
照明デザイン:合同会社CHIPS
施 工:株式会社ひらい(建築工事)
市街化調整区域に建つ2つの福祉施設が同居した建物の計画である。
認知症高齢者グループホームと併設する看護小規模多機能型居宅介護事業所(看多機)は、どちらも地域密着型サービスに分類され、行政指導の下、施設用途と設置エリアが限定されるものになる。つまり、行政がエリアマネジメントをしているため、どこでも自由に建てられるわけではないのである。今回の計画地においては、グループホームに看多機の併設が条件であったため、機能の異なる用途のゾーニングから設計をスタートした。
また、市街化調整区域という立地条件では、都市計画法の許可が必要となり、簡単に建物を建てることができないエリアにもなっている。逆を言えば、周辺に広がる農地には建物が建つ可能性が限りなく低いため、その眺望が担保された土地ということにもなる。
これらの条件を整理すると、グループホームと看多機というそれぞれの用途の特性上、通所で利用者の出入りが多い看多機を1階に、住まいとして利用され眺望が良い2階にグループホームを配置するという方針は自然と決まっていった。
平面計画では、2階のグループホーム2ユニットをワンフロアで効率良く配置する中廊下型の機能的な平面形状とし、外形をそのまま1階の看多機へ落し込んだ。モジュールを尺貫法で採用しているため、中廊下とした場合、法規上の廊下幅を確保すると廊下としてはやや広いスケール感となる。それを逆手に取り、ソファやベンチなど休憩できる家具を配置することで、人が集まるリビングエリアから少し距離を取りたいときの落ち着ける居場所を設けることができた。
用途の異なる1階の看多機は、上階の外形のままでは当然機能上納まらないため、眺望の良い隣地側へボリュームを飛び出させ外観のアクセントとし、その凹凸部を利用してデッキテラスやルーフバルコニーといった外を感じられる場を積極的に設けて利用者の安らげる空間を提供している。
建物配置としては、平面形状が決まった建物ボリュームを敷地ギリギリまで眺望の良い隣地側へぐっと寄せて道路への圧迫感を減らし、道路側に駐車場や車寄せなど必要機能を配置している。隣地側はLDKなどの共用空間から眺望を楽しめる計画とした。
デッキテラスには大きく張り出した軒を設け、日射への配慮をしつつ、軒裏を木部の表しとすることで木の温かみを感じることができる場所となっている。主要構造部は準耐火構造となっているため、本来であれば、軒裏も被覆されることが多いが、野地板を厚くし、外壁ラインをファイヤーストッパーとすることで、建物内部への炎の侵入を防止する措置を施している。深い軒の構造についても構造梁を出すと燃え代設計により大きな断面となってしまうため、構造梁は出さず垂木を梁成の大きい2×6(ツーバイシックス)で跳ね出している。軒先端部は鉄骨の丸柱に鉛直力のみ負担させ、水平力は屋根面で剛性を取ることで先端のたわみ防止の役割だけ担わせた。そのおかげで、眺望を遮らない細い柱を実現している。
建物完成後、事業主から「夏には近隣のちはら台の花火が見えるので、みんなで外へ出て夕涼みができるね」と楽し気な言葉を聞けた。機能的なボリュームであっても周辺環境を少し意識するだけで居心地の良い空間を生み出すことができるのだと改めて実感した。